研究概要 |
さまざまながん関連遺伝子を対象に、がん組織におけるDNAのメチル化異常をメチル化特異的PCR法を用いて調べた.p16、p15、E-カドヘリン、H-カドヘリン、エストロゲン受容体遺伝子のプロモーターのメチル化は食道扁平上皮がん210サンプルにおいて、それぞれ18%、1%、17%、17%、24%に認められた.また20%のサンプルは2種以上の遣伝子が同時にメチル化していた.さらに正常状態で50%のメチル化がみられるSNRPN遺伝子について食道がん組織におけるメチル化変化を調べたところ、16%に過メチル方向の21%に脱メチル方向の顕著な変化を認めた.一方子宮筋肉腫では、発現低下の見られた遺伝子においてプロモーターのメチル化は全く見られなかった.以上より、ある種(すべてではない)のがんではメチル化異常がゲノム上の多数の箇所に生じることが明らかになり、このことはがんにおけるゲノムのメチル化安定化機構の破綻を示唆するものと考えられた.今回解析した遺伝子の染色体上のマップ位置は、ER遺伝子が6番染色体端腕上、p16,p15遺伝子が9番端腕上、SNRPN遺伝子が15番長腕上,E-cad.,H-cad.遺伝子が16番長腕上である.これらの領域に広くメチル化異常が認めもれたことは、がん組織においてゲノムワイドにメチル化異常が生じていることが示唆された.このことはまた、がん組織におけるゲノムのメチル化安定化機構の破綻が示唆していると考えられた.今後はこのような基礎的知見をふまえ、実際にがん関連遺伝子ではメチル化がどのように遺伝子を不活化していくのか.その機構を明らかにすることで、本研究が提唱した「がんにおけるゲノムメチル化安定化機構の破綻」の解明をめざしたいと考えている.
|