研究概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)の感染後、約60年という長い潜伏期間を経て発症する成人T細胞白血病(ATL)の発がん機構と分子病態の解析を行った。 1)癌抑制遺伝子p16のDNAメチル化がエクソン部分から連続性に進展していくことを明らかにした。またHTLV-1プロウイルスの5'側LTRのメチル化によりウイルス遺伝子の転写が抑制されることを見出し、プロウイルスのメチル化がgag, pol, env領域から始まり5',3'側へと進展することを明らかにした。Methylated CpG island amplification/representative difference assay (MCA/RDA)法によりATL細胞で特異的に低メチル化される遺伝子としてMEL1Sを同定し、その異所性発現がTGF-βに対する抵抗性に関連することを報告した。ATLで高メチル化される遺伝子としてEGR3,KLF4遺伝子を同定しEGR3の転写抑制によりATL細胞はFasリガンドの発現を抑制しFasからのアポトーシスを回避していることが明らかとなった。 2)ATL細胞がRANKリガンドを発現し血液幹細胞から破骨細胞への分化を誘導し、破骨細胞数を増加させることによって高カルシウム血症を起こすことを示した。 3)HTLV-1感染、ATLに伴う免疫不全の原因として胸腺レベルでのTリンパ球の産生低下に伴うナイーブTリンパ球の減少が存在することを明らかにした。 4)Tax蛋白質は腫瘍化に中心的な役割を担っていると考えられるが、腫瘍となった段階では発現しないものが多い。ATL細胞におけるTaxの不活化機序として1)tax遺伝子の遺伝的変異、2)5'側LTRのDNAメチル化、3)5'側LTRの欠失の3つが存在することを示した。
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