ヒト消化管ストローマ細胞腫瘍(GISTs)は、消化管間葉系腫瘍のなかで最も多い腫瘍である。我々がほとんどのGISTsにc-kit遺伝子が強く発現していることを明らかにした結果、GISTsの確定診断が容易に行えるようになった。しかし、GISTsの良悪性の鑑別は困難なことが多い。我々はGISTsの発生にc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異が関与していることを示しており、本研究はc-kit遺伝子に突然変異の存在するGISTs群と存在しないGISTs群の間で患者の予後を比較し、GISTsにおけるc-kit遺伝子の突然変異の有無を調べることが患者の予後を推定する客観的な因子となりうるかどうかを明らかにする目的で行った。 消化管の間葉系腫瘍約150例のホルマリン固定・パラフィン包埋手術材料からc-kitレセプターの免疫組織化学により消化管ストローマ細胞腫瘍(GIST)を選び出し、マイクロディセクション法によりgenomic DNAを抽出し、c-kitレセプターの細胞外領域、傍細胞膜領域をコードしているエクソン9および11をPolymerase chain reaction(PCR)で増幅し、SSCP法と直接シークエンスにより、突然変異のタイプを確定した。GIST患者の予後について調査したところ、c-kitの傍細胞膜領域の機能獲得性突然変異がみられる症例は変異のない症例に比し、予後が悪かった。また、傍細胞膜領域に突然変異を持つGIST症例と細胞外領域に突然変異を持つGIST症例の間には有意な差を認めなかった。c-kit遺伝子の突然変異を検索することは、GIST患者の予後を客観的に評価する指標になると考えられた。
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