癌のほとんどにテロメラーゼ活性が見られる。テロメラーゼはテロメア延長作用を持ち、癌細胞の成立に必須な細胞不死化への役割が強く認識されてきた。しかし、テロメラーゼの果たす役割はそれだけではなく、増殖促進や細胞遺伝子発現に直接間接に影響することを示唆するデータが、本研究を通じて蓄積しつつある。多くのヒト体細胞は、培養系で10-20代しか増殖できず(いわゆるカルチャーショック)、これはテロメア短縮の限界による増殖停止とは異なるが、テロメラーゼ遺伝子(hTERT)導入によって増殖回数が著しく延長することがわかった。例えば、ヒトアストロサイトは通常10-20回しか分裂できないが、hTERTの導入により60回を超えて今なお増殖中である。肝実質細胞は通常は数回程度しか分裂できないが、hTERTの導入により15回を超えて今なお増殖中である。強い増殖誘導活性を持つSV40T抗原遺伝子を導入すると増殖回数が著しく延長することと似ているが、hTERT導入細胞はいずれも正常機能を保持しており増殖速度も速くならないところが異なる。遺伝子発現やタンパク質発現のパターンはhTERT導入によって大きくは異ならないが、いくつか異なるものもあり、注目される。特に興味あるのは、hTERTを導入したアストロサイトを培養した培地には、導入していない細胞の培地には見られなかったタンパク質スポットが二次元電気泳動から見い出されたことである。このタンパク質の発現がhTERT導入で誘導されるものか、増殖継続に役割を果たしているものかが注目され、同定を急いでいる。これらのことは、テロメラーゼ活性を有する癌細胞の持つ性質を理解する上で、新たな視点として注目に値する。
|