研究概要 |
ヒトアストロサイトは培養系での分裂寿命が約20代と短く、テロメアはほとんど短縮しない。ウイルスベクターによってhTERTを導入すると、90代をこえて現在もまだ増殖中である。核型は正常であった。空ベクター導入細胞とhTERT導入細胞の間のタンパク質を2次元電気泳動で調べると、大部分のスポットには違いがなかったが、一部に違いがあった。違いのある細胞タンパク質についてスポットを切り出してマスで解析し、データベースと照合したところ、増加するスポットの多くは細胞骨格系やタンパク質合成系などのタンパク質であった。しかし、アポトーシスを抑制するタンパク質が濃く、アポトーシスをすすめる役割を持つ複数のタンパク質が薄くなっていることが分った。正常ヒトアストロサイトが20回くらいしか分裂できない理由が、培養条件がアポトーシスを招くためで、テロメラーゼ導入細胞ではアポトーシスを抑制する機能が亢進しているために増殖を継続する、という仮説は魅力的である。この仮説の可否は今後検討されなければならない。 ヒト肝実質細胞は培養系で増殖し難いが、胎児由来の肝実質細胞にテロメラーゼ遺伝子を導入して、培養を続けた。分裂回数150回を越えてなお増殖中で,不死化と判定できそうである。胎児由来とはいえ、ヒト肝実質細胞を、癌遺伝子の導入なしにこのように長期間増殖を継続させる事ができたのは画期的なことである。形態的には正常であるが、生化学的に正常細胞の性質を維持しているかどうかを解析中である。ヒト成人肝実質細胞は、テロメラーゼ遺伝子を導入しても細胞倍加時間が約1週間以上と長いため、増殖回数はなかなかのびないが、それでも90回を越えて現在も増殖中である。正常細胞の性質を維持して、このように長期間増殖を継続させる事ができたのは画期的なことである。
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