ヒト正常体細胞は有限分裂寿命であるが、癌組織では90%以上でテロメラーゼが検出され、不死化した細胞だけが臨床的な癌にまで成長できるものと理解されている。テロメラーゼ・テロメア維持が細胞の不死化に果たす役割を解析するため、様々なヒト体細胞にhTERTを導入した結果、テロメラーゼ活性発現、テロメア延長、分裂寿命延長、不死化の関係は単純ではないことが分かった。これらのプロセスにおける細胞内シグナル伝達系については理解が進んでおらず、解析を進めた。繊維芽細胞や血管内皮細胞では多くの場合hTERT導入だけで不死化した。分裂寿命で増殖停止する直接の原因はp21の発現上昇によるが、テロメア短縮が最上流シグナルにあることを種々の方法で確認し、テロメア短縮によるp21発現上昇はp53非依存的であることを確認した。このプロセスでp21の発現は、p38MAPKによって正に、HDAC2によって負に制御されていることが示された。hTERT導入繊維芽細胞によっては、通常の培養条件である20%酸素気相で活性酸素・DNA損傷・ATM-p53-p21の経路で増殖停止し、3%酸素気相では不死化した。乳腺上皮細胞、アストロサイト、肝実質細胞は、カルチャーショックのため20回程度しか分裂できない。強力な増殖誘導作用を持っSV40T抗原遺伝子の導入でショックを乗り越え、さらにhTERTを導入すると不死化した。意外なことにhTERTにはT抗原と似た増殖誘導作用があり、hTERT導入のみによってこれらの細胞のカルチャーショックを乗り越えさせ、さらに不死化させた。骨芽細胞はp16によって増殖停止し、hTERTによって延命も不死化もしなかった。hTERT導入細胞は基本的に正常細胞の表現型を維持しているが、hTERT導入によって発現が変化する遺伝子群、テロメア長に依存して現変化する遺伝子群などを、プロテオーム、DNAチップで解析中である。また、hTERT導入がゲノムの正常性を維持する可能性、外来DNA導入に対する防御への関与および細胞トランスフォーメーションに対する抵抗性への関与についても解析を進めている。以上、多くの予想外の結果を含めて、テロメラーゼ活性発現、テロメア延長、分裂寿命延長、不死化、トランスフォーメーションの関係は単純ではなく、癌化に果たすテロメラーゼ・テロメア維持の役割の解析は未だ不十分で、継続的な研究が必要ある。
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