相同組換え修復において中心的役割を果たすRad51と機能的に連関するXRCC3は、相同組換え修復に関わるほかにDNA再複製を抑制することによって染色体の数的安定化を保つことがこれまでの研究によって明らかとなった。そこで、相同組換え修復によるDNA再複製抑制機構を別の修復遺伝子において検討することによって核内DNAネットワークにおける相互作用の解明を試みた。組換え中間体の解消酵素であるMus81のノックアウトマウスでは高頻度のがん発症とともに自発的な染色体異常の存在が報告されているが、その分子機構は不明であるために染色体が安定であるヒト大腸細胞株HCT116においてMus81欠損細胞を作製した。この細胞においてもXRCC3欠損細胞と同様にDNA再複製による染色体の倍加が観察された。この細胞の増殖速度が野生株よりも有意に低下しているために、細胞周期の解析を行ったところG2期の遅延が認められた。これはCyclin B/Cdk1活性が低下していることによっても確認された。この分子機構を理解するためにG2チェックポイントの活性化を解析したところ、ATM依存性にChk2がリン酸化によって活性化され、その情報がCdc25Cを介してCdk1に伝達されていることが明らかとなった。このような、DNA損傷依存性のG2チェックポイント活性化とDNA再複製の関連性を検討するために活性の低下したCdk2を過剰発現によって補正したところ染色体の倍加は低下した。この結果より、DNA損傷に応答したチェックポイント活性化が染色体不安定性の原因となることが明らかとなった。
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