遺伝性乳がん遺伝子BRCAが相同組換え修復において重要な役割を果たすことが明らかにされて以来、発がんにおける相同組換え修復機構の異常の重要性が議論されている。そこでヒト細胞における相同組換え修復の分子機構の解明をおこなった。我々が新規相同組換え遺伝子として単離したRad54Bは生化学的解析によって二本鎖DNA依存性ATP分解酵素活性を有することが明らかとなったが、ヒトにおける欠損細胞の作製によってジーン・ターゲティングに必須であることが判明した。それに対して、Rad51パラログであるXRCC3は姉妹染色分体を介する相同組換え修復に必要とされることが明らかとなった。さらに、XRCC3はDNA再複製を制御することによって染色体倍加を抑制して染色体安定性を保つことが発見された。そして、発がんに関与する遺伝子多型T241Mは正常な相同組換え修復機能を有するにもかかわらず染色体倍加抑制機能に異常をきたし、これが発がんリスクに関与することが示唆された。同様の染色体倍加は修復中間体解消酵素Mus81欠損細胞でも観察された。この表現型の分子機構を検討した結果、DNA損傷に応答してChk2を介するG2チェックポイントが活性化されてCyclin B/Cdc2活性が低下することが原因であることが明らかとなった。このように相同組換え修復機構はDNA複製や細胞周期の調節機構と密接にリンクしていることが証明され、これらのネットワークの異常によって染色体不安定性が誘導されることが示唆された。
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