昨年まで、細胞周期ブレーキp27はSkp2だけでなく、KPCによってユビキチン化され、分解されることを報告してきたが、今年度はSkp2システムとKPCシステムが細胞周期においてどのように使い分けられているのかという問題を検討した。そのために下記の8種類の遺伝子改変細胞を作製し、細胞周期の進行とp27の分解を調べた。1)正常線維芽細胞(Skp2+KPC+p27+)、2)Skp2ノックアウト線維芽細胞(Skp2-KPC+p27+)、3)KPCノックダウン線維芽細胞(Skp2+KPC-p27+)、4)p27ノックアウト線維芽細胞(Skp2+KPC+p27-)、5)Skp2・p27ダブルノックアウトマウス線維芽細胞(Skp2-KPC+p27-)、6)KPC・p27ダブルノックダウンノックアウト線維芽細胞(Skp2+KPC-p27-)、7)Skp2・KPCダブルノックアウトノックダウン線維芽細胞(Skp2-KPC-p27+)、8)Skp2・KPC・p27トリプルノックアウトノックダウン線維芽細胞(Skp2-KPC-p27-)。この8種類の細胞を用いてまずp27の分解について検討を加えた。p27遺伝子が欠失した4)6)8)はこの検討から除外した。その結果、G1期では3)KPCノックダウン線維芽細胞(Skp2+KPC-p27+)がp27の分解が阻害されていたが、2)Skp2ノックアウト線維芽細胞(Skp2-KPC+p27+)ではp27の分解は正常であった。逆にS期においては、2)Skp2ノックアウト線維芽細胞(Skp2-KPC+p27+)でp27の分解が傷害されていたが、3)KPCノックダウン線維芽細胞(Skp2+KPC-p27+)ではp27の分解は正常であった。7)Skp2・KPCダブルノックアウトノックダウン線維芽細胞(Skp2-KPC-p27+)はG1期、S期のどちらでもp27の分解障害を示した。この結果から、p27の分解はG1期ではKPCによって、S期においてはSkp2によって制御されていることが明らかとなった。次にこれら8種類の細胞において細胞周期の遅延を調べた。p27の分解が傷害されている2)Skp2ノックアウト線維芽細胞(Skp2-KPC+p27+)や3)KPCノックダウン線維芽細胞(Skp2+KPC-p27+)は細胞周期が遅延することが予想されたが、実際にはそのような遅延は認められなかった。これはp27がG1期に核内から細胞質へ排出されるため、KPCによる分解が起こらなくてもp27の機能が失われるためであろう。またSkp2がなくてもS期への進行は妨げられないが、M期への進行は障害されることがわかった。
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