本研究では、Wip1ホスファターゼの基質特異性について、リン酸化によりその機能が調節されているp53配列由来のリン酸化ペプチドを用いin vitroにおいて解析した。まず、p53のin vivoでのリン酸化状態を理解するために、検討されていなかったSer6、Ser9について解析し、DNA損傷性のストレスによりこれらの部位のリン酸化が著しく亢進することを示した。また、Ser9のリン酸化はSer6のリン酸化に依存してCK1によりリン酸化されることを見い出した。Wip1は、GSTまたはHis-tagをN末端に付加した融合タンパク質として発現さた。計12種のp53リン酸化ペプチドを化学合成し、これらを基質としてWip1の脱リン酸化活性を評価した。その結果、Wip1は15、20、33、37位のSer残基あるいは18位Thr残基がリン酸化されたp53N端の酸性リン酸化ペプチドを脱リン酸化したが、C端の塩基性領域にある315、371、376、378および392位Ser残基のリン酸化部位に対してほとんど脱リン酸化活性を示さなかった。これは、Wip1調節ドメインは塩基性に富んでいるため、Wip1自体が酸性ペプチドとの親和性が高いことに起因するためではないかと考えられた。そこで、さらに、Wip1の親和性に対するp53N端配列の影響を検討するため、鎖長の異なる3種の15位リン酸化ペプチドについて検討した。p53(1-39)中の15位の脱リン酸化活性と比較し、p53(1-24)に対する脱リン酸化は低活性であったがp53(10-39)に対してはより高活性であった。 以上の結果より、p53により誘導されるWip1は酸性領域に存在するリン酸化部位に対し親和性を持ち、p53の安定化・活性化に重要であるN末端部をフィードバック調節により脱リン酸化し、p53を不活性化する可能性が示された。
|