研究概要 |
1.大腸癌の遺伝子治療への応用:アデノウイルスベクターを用いたp53ファミリー遺伝子導入によるアポトーシスの誘導効果 p53ファミリー遺伝子はDNA結合領域で特に高い相同性を示し,p53と構造的・機能的類似性が高いことが推測されている.一方,p73,p63は発生や分化に関与するなど,p53とは全く異なった機能も合わせ持つことも明らかになってきた.本研究では,p73およびp63の抗腫瘍活性をp53と比較するために,ヒト大腸癌由来細胞10株にアデノウイルスベクターを用いてp53ファミリー遺伝子を導入し,細胞周期に及ぼす影響とアポトーシス誘導の程度を検討した.p53ファミリー遺伝子導入によって,いくつかの大腸癌細胞では同様のアポトーシス誘導効果が認められたが,他の大腸癌細胞では異なる効果をもたらした.この結果は正常型p53遺伝子治療に抵抗性の大腸癌に対して,p73βおよびp63γ遺伝子導入が利用できる可能性を示唆している. 2.p53ファミリー遺伝子のNotchシグナル経路への関与 発生分化に必須であるp63およびp73がどのように関与しているのか知るために,本研究ではp63あるいはp73によって特異的に発現が制御される標的遺伝子の同定をcDNAマイクロアレイ解析を利用して試みた.Notch受容体のリガンドをコードするJAG1およびJAG2遺伝子がp63およびp73によって発現上昇することを見つけた.さらにJAG1遺伝子の第2イントロンにp63タンパク結合部位を同定し,p63タンパクは直接この部位に相互作用することをChIP法を用いてin vivoの系で実証した.この結果はp53ファミリー遺伝子とNotchシグナルの関連を明らかにし,p53ファミリー遺伝子が正常の発生分化に関わる分子機構の1つを示唆している.
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