C型肝炎ウイルス(HCV)感染症においては、肝内の過剰フリー鉄に基づく酸化ストレスおよび、それに伴う酸化的障害、とくにDNA損傷が細胞癌化を促進している可能性があるが、詳細は不明である。本研究では、1)ヒト初代肝細胞を用いて細胞傷害機構への3価鉄の影響を検討するとともに、2)HCV慢性肝炎患者に対して除鉄治療を行い、治療前後に施行した生検肝組織を用いて、酸化的DNA損傷の指標として肝DNA中の8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)レベルを調べた。また、肝組織中の鉄量や肝炎活動性スコアの変化をあわせて検討した。結果として、まず、肝細胞におけるFas-FasLを介したシグナル伝達には、ミトコンドリア由来の活性酸素産生およびcaspase3の活性化が関与し、その反応には3価鉄が促進的に作用することが判明した。次にHCV慢性肝炎に対する除鉄治療によって、全例で血清ALT値は前値の50%以下に低下し70%の症例では正常化した。また5年間の観察期間内に肝発癌症例はなかった。治療前の肝8-OH-dGレベルは、対照正常肝の5-7倍に増加していたが、3年目以降には正常肝に近いレベルまで低下した。また、線維化スコアを含めて総HAIスコアは有意に改善した。以上より、本研究の成果から、HCV慢性肝炎の進展・増悪には3価鉄イオン過剰に基づく酸化的傷害機序が働いており、それは除鉄療法によりコントロール可能である可能性が示された。すなわち、除鉄療法はhostの酸化的DNA損傷によるgenomic instabilityを回避できる治療として有望である可能性が示唆された。
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