白血病・骨軟部腫瘍の原因の大部分は染色体異常に起因している。特に、転座による原癌遺伝子の活性化や癌細胞特異的な融合蛋白質の出現は重要な要因の一つである。申請者は、染色体転座に起因するキメラ癌遺伝子による腫瘍化のメカニズムを明らかにすべく、t(12;16)が原因とされる粘液型脂肪肉腫に注目し、Cre-loxPシステムを用いてin vivoでTLS-CHOPキメラ遺伝子を発現するコンデイショナルノックインモデルマウスの作成に成功した。これらのマウスの脂肪組織にTLS-CHOP陽性細胞の存在は確認されているが、免疫組織化学的にTLS-CHOP陽性細胞の減少は見られるものの腫瘍性病変は確認されていない。このような事実から、正常の個体においては、細胞増殖に対してはTLS-CHOP遺伝子産物は何ら影響を与えないことが示唆された。さらに、本マウスより胎児線維芽細胞(MEF)を作成し、FACSにて細胞周期を観察すると、TLS-CHOP陽性MEFは野生型MEFと同様の細胞周期パターンを示した。このような事実から染色体転座によるキメラ癌遺伝子は、染色体の不安定性などゲノムの異常が存在する時のみ、細胞増殖能に変化を与えることが示唆された。本研究においては、さらにTLS-CHOPコンデイショナルノックインマウスとp53-/-マウスを交配し、TLS-CHOP陽性細胞数の変化、腫瘍化能の検討をしている。さらに、この現象がTLS-CHOP以外のキメラ遺伝子でみられるかどうか検討するため、骨髄性白血病のTLS-ERGキメラ遺伝子のモデルマウスを作成することを試み現在キメラマウスを得ている。もし正常の生体環境では、キメラ癌遺伝子が細胞に変化を与えずまたこのようなnegative selectionが実際に存在するのなら、染色体転座による発がん機構の理解に新たな知見を開くことが考えられる。
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