疾患モデルによる多段階発がん研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12213139
• 研究機関: (財)癌研究会
• 研究代表者: 樋野 興夫 財団法人癌研究会, 癌研究所・実験病理部, 部長 (90127910)
• 研究分担者: 小林 敏之 財団法人癌研究会, 癌研究所・実験病理部, 研究員 (40260070) ; 梶野 一徳 財団法人癌研究会, 癌研究所・実験病理部, 研究員 (80260066)
• キーワード: 起始遺伝子 / 腎発がん / Tsc1遺伝子 / Tsc2遺伝子 / Erc遺伝子 / Niban遺伝子 / 多段階発がん / 疾患モデル

研究概要

(1)種々のTsc2遺伝子欠失変異体を導入したTransgenic Eker ratの作製と解析を行い、個体レベルでの腎発がんを抑制する領域の同定に成功した。最近、Tsc1&Tsc2産物の結合が、機能上、必要であるとして注目されているが、今回、同定された発がん抑制領域は、Tsc1産物との結合能を有していない。遺伝子機能を考える上で重要な知見と考える。
(2)多段階発がん過程で発現してくる新規Niban遺伝子産物は、初期病変である変異尿細管から発現が観察された。Niban遺伝子機能解析の一貫として、knockoutマウスの作製を行った。
(3)多段階発がん過程で後期に発現してくるErc geneのknockoutマウスを開発し、交配にて、Erc(-/-)&Tsc2(-/+)double knockout miceを作製することにより、Erc遺伝子発現の腎発がんにおける役割を個体レベルで解析できる系の確立に成功した。
(4)IFNγtransgenicマウスとTsc2遺伝子knockoutマウスの交配により腎発がんが抑制された。遺伝性がんの予防の実際が示された。
(5)Tsc遺伝子産物機能として、signalling pathway (Akt-mTOR-S6K)の制御が明らかとなった。mTORの阻害剤である、rapamycin投与によって、ヌードマウスに移植されたTsc2遺伝子変異腎腫瘍は消滅した。分子標的治療の実際である。
(6)Nihonラットの遺伝解析を行い、原因遺伝子の局在、さらに、その原因遺伝子(がん抑制遺伝子)の同定に成功した。

研究成果

• [文献書誌] Hino, O., Okimoto, K., et al.: "Renal carcinogenesis-genotype, phenotype and dramatype"Cancer Science. 94. 142-147 (2003)
• [文献書誌] Kobayashi, T., Hino, O., et al.: "Toward chemotherapy for Tsc2-mutant renal tumor"Proc.Japan Acad.. 79B. 22-25 (2003)
• [文献書誌] Momose, S., Hino, O., et al.: "Identification of the coding sequences responsible for Tsc2-mediated tumor suppression using a transgenic rat system"Hum.Mol.Genet.. 11. 2997-3006 (2002)
• [文献書誌] Gao, X., Hino, O., et al.: "Tsc tumor suppressor proteins antagonize amino-acid-TOR signalling"Nature Cell Biology. 4. 699-704 (2002)
• [文献書誌] Hino, O., Kobayashi, T., et al.: "Prevention of hereditary carcinogenesis"Proc.Japan Acad.. 78B. 31-33 (2002)
• [文献書誌] Satake, N., Hino, O., et al.: "N-ethyl-N-hydroxyethylnitrosamine(EHEN)-induced renal and hepato-carcinogenesis in the tumor suppressor Tsc2 transgenic rat"Cancer Letters. 184. 157-163 (2002)