遺伝性乳がん原因遺伝子BRCA2の蛋白に結合する分子を同定することによって、蛋白分子間の特異的結合を検出し、その情報伝達の流れからBRCAの生理機能の解析を進めてきた。(1)BRCA遺伝子が機能するカスケード上に含まれる関連遺伝子を同定するため、ヒト乳癌細胞株において、BRCA2を発現している乳腺由来および乳癌由来細胞株においてsiRNAを用いたRNAiによりBRCA2遺伝子機能を阻害した。その変化をcDNAマイクロアレイによって遺伝子発現プロファイルとして解析し、BRCA遺伝子の機能経路の解明を試みた。2種の細胞株における解析から、growth factor機能を有する遺伝子の発現上昇、negative regulator of Cell proliferation機能を持つ遺伝子の発現低下等が認められ、それらの機能関連の解析を進めている。(2)一方、BRCA2結合タンパクを同定するため、ヒト胎児脳cDNAライブラリーのスクリーニングを行った。BRCA2タンパクのN端近くにはマウスとアミノ酸レベルで90%以上保存されている領域が存在する(アミノ酸約100個)。その領域をbaitとして実験を行った結果、RING-finger-containing E3 ubiquitin ligaseであるLNX2が結合候補タンパクとして単離され、この相互作用のBRCA2機能における役割を検討している。また、第3、第4の遺伝性乳癌原因遺伝子が存在することが示唆されており、昨年BRCA1、C端領域に結合する蛋白としてBACH1が報告され、若年者乳癌患者においてこの遺伝子の胚細胞変異が認められたことよりBACH1は遺伝性乳癌の原因遺伝子と考えられている。そこで本研究におけるLNX2等の変異解析により新規原因遺伝子が単離される可能性が高いと考えている。
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