MNNGにより誘発されたラット胃がんで過剰メチル化されたDNA断片を、MS-RDA法により検索、過剰にメチル化されたDNA断片2個を分離した。うち1個の近傍に存在したgp115遺伝子の発現が、胃がん浸潤部の間質で誘導されていることが判明したが、胃がんでサイレンシングされた遺伝子は見いだされなかった。そこで、ヒト胃がんを材料にMS-RDA法を行い、近傍にCpGアイランドが存在し、かつ、胃がんでメチル化されたDNA断片6個を分離した。CpGアイランド自体のメチル化を検討した結果、3個のCpGアイランドが胃がんでメチル化されており、うち2個については近傍の遺伝子も判明した。1個はINSIG1遺伝子のプロモーター領域のCpGアイランドで、CpGアイランド内の5'寄り領域は22個中11個の胃がんでメチル化されていた。メチル化とほぼ相関した発現低下も認めた。1個は、p41Arc遺伝子のエクソン8のCpGアイランドで、そのメチル化と発現低下とは相関しなかった。1例のみは、プロモーター領域のCpGアイランドがメチル化されており、サイレンシングされていると考えられた。INSIG1遺伝子の機能は未知の部分も多いが、線維芽細胞の脂肪細胞への分化に伴い発現することが知られている。また、p41Arc遺伝子は、Arp2/3複合体の一つのサブユニットで、細胞骨格として重要なアクチンの重合に関与する。これらの遺伝子の発現低下と胃発がんの関連に興味が持たれる。
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