研究概要 |
加熱魚肉食品中に含まれるHCAにより誘発されるラット大腸がんモデルを用いて、PhIP, IQ, MeIQによるACF誘発性および大腸発がん性を比較した。HCA投与を3クール繰り返した後、高脂肪食のみを14週間投与し、32週目におけるACFの誘発数を調べた結果、PhIPは6.0±2.6個,IQは5.5±1.8個とPhIPと同等、MeIQは15.4±4.7個とPhIPの約2倍程度のACF誘発性を示した。PhIP, IQおよびMeIQの32週時における大腸腫瘍の発生数は、それぞれ一匹平均0.60個、0.32個、0.68個であり、ACF総数との相関は見られなかったが、異型な病変(dysplastic ACF)の誘発数とは強く相関することが分かった。Dysplastic ACFが大腸前がん病変として重要な意義を持つことが示唆された。PhIP投与後3週及び6週時における大腸上皮での遺伝子発現解析の結果、発現誘導される遺伝子としては、dermatan sulfate proteoglycan-II, PkB kinase, ras GTPase-activating Protein, protein kinase Cγが、発現抑制される遺伝子としては、apoprotein B mRNA editing protein mRNA, guanine nucleotide-releasing Protein, cGMP-dependent protein kinase II, UDP-glucuronosyltransferase等が同定された。phIPにより発現誘導或いは抑制される遺伝子は、他のHCA類(IQ, Glu-P-1, MeIQ, MeIQx, Trp-P-2)とは大きく異なっていた。さらにIQ投与群では、化合物投与後6週の時点においても、MeIQ, Glu-P-1, MeIQx, Trp-P-2に比較して大腸上皮での遺伝子発現が全体的に抑制されている傾向にあった。HCAにより誘発された大腸腫瘍でのβ-cateninやApc遺伝子の変異スペクトラムにも、各HCAに特有の遺伝子変異が存在する可能性が示唆された。大腸発がん性および非発がん性のHCA類により誘導される遺伝子変化を包括的に解析し、これらの情報を集積・統合することにより、既知および未知の化合物による大腸発がん性の、早期段階での予測に寄与できるものと期待される。
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