研究概要 |
ヒト発がんの要因となる外的環境要因の同定と、それら要因のヒトへのリスクについては殆ど解明されていない。本研究では、環境中の変異原・がん原性物質の一種で加熱魚肉食品中に含まれるヘテロサイクリックアミン(HCA)類に焦点を絞り、種々のHCAの大腸発がん性の差異と大腸上皮に発現誘導される遺伝子プロファイルとの関連性について解析し、大腸がん発生を発がんの早期段階で予測可能とする遺伝子変化の有無について検討した。「長期連続投与法」によりラットでの大腸がん性が確認されている5種類のHCA (PhIP,IQ,MeIQ,Glu-P-1,MeIQx)と非発がん性が確認されている3種類のHCA(Trp-P-2,AαC,MeAαC)を用いて、各HCAにより大腸上皮に発現誘導或いは発現抑制される遺伝子を解析した。非発がん性のAαCとMeAαCの2つは、Trp-P-2を含め他の6つのHCAとは異なるクラスターを形成した。興味深いことに、大腸発がん性のMeIQ,Glu-P-1及びMeIQxで共通に有意な発現上昇を示した38個の遺伝子中34個がTrp-P-2でも有意に発現誘導されていた。さらに、共通に発現低下がみられた86個のうち82個の遺伝子が、Trp-P-2により有意に発現低下していた。これらの結果から、MeIQ,Glu-P-1及びMeIQxと同様に、Trp-P-2も大腸発がん性を有することが示唆された。さらに、PhIP誘発大腸がんで正常部に比べて発現が2倍以上に上昇或いは低下する遺伝子のうち、大腸発がん性のPhIP,MeIQ及びGlu-P-1の投与によっても大腸上皮での発現が有意に変化する遺伝子36個を抽出した。このうち一部の遺伝子については、PhIP投与後6週時に認められた発現変化が60週時まで維持されていることが分かり、これらの遺伝子がHCAの大腸発がん性を早期段階で予測するための指標となる可能性が示唆された
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