研究概要 |
ヒト発がんの要因となる環境要因(外的要因)の同定と、それらの要因のヒトへのリスク及び低容量被爆の影響等については未だ殆ど解明されていない。本研究では、環境中の変異原・がん原性物質の一種で加熱魚肉食品中に含まれるヘテロサイクリックアミン(HCA)類に焦点を絞り、「長期連続投与法」によりラットでの大腸がん性が確認されている5種類のHCA(PhIP,IQ,MeIQ,Glu-P-1,MeIQx,)と、非発がん性が確認されている3種類のHCA(Trp-P-2,AαC,MeAαC)について、「HCAの短期間欠投与法」を用いた短期および長期の発がん実験による多段階発がんの進展過程の病理組織学的な解析と、誘発される遺伝子変化について解明することを目的とした。また、これらHCAにより誘発されるdypslastic ACFや大腸腺腫、大腸がんなどの腫瘍性病変における遺伝子変異スペクトラムの化合物特異性、更には種々の化合物の発がん性の差異と大腸上皮での発現遺伝子プロファイルとの関連性について解析し、大腸がん発生に重要な役割を果たしている遺伝子変異及び発現変化が発がん過程の早期段階で予測可能かについて検討した。解析の結果、PhIP, IQ, MeIQで誘発される大腸腫瘍間で、Apcやβ-catenin遺伝子の変異スペクトラムに差が見られることや、HCA投与により大腸上皮に発現誘導或いは抑制される遺伝子群に化合物間で違いがあることが分かった。大腸腫瘍での遺伝子変異としては、PhIP誘発腫瘍における5'-GGG-3'の反復配列からのGの一塩基欠失が特徴的であり、PhIPのsignature変異としての重要性を提示することが出来た。種々のHCAにより大腸上皮に発現誘導される遺伝子プロファイルの階層型クラスター解析では、非発がん性のAαCとMeAαCは、他の6種類のHCAとは明確に区別されるクラスターを形成することが分かった。さらに興味深いことに、発がん性のMeIQ,Glu-P-1及びMeIQxに共通して有意な発現上昇を示した38個の遺伝子中34個が非発がん性のTrp-P-2でも有意に発現誘導されること、逆に、共通に発現低下が認められた86個の遺伝子中82個がTrp-P-2投与でも有意に発現低下することが分かった。これらの結果から、Trp-P-2の大腸発がん性が示唆され、現在「短期間欠投与法」による大腸発がん性の再検討を進めている。
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