研究概要 |
小児がんは最近まで治癒率が低かったため、家族発生例が極めて稀で遺伝要因に関する臨床疫学的情報が少ない。小児がんの家系員の発生実態を系統的に把握するため、世界最大の小児がんデータベースである日本小児がん全国登録35157例の資料を解析した。 1)小児がんの親、同胞、いとこ、おじおばのがん歴陽性率は一般集団の癌罹患率より明らかに高く、白血病、悪性リンパ腫、中枢神経系、眼、軟部組織腫瘍、内分泌系など、発端者と同一臓器のかん発生の有意の上昇の他、軟部組織腫瘍の発端者における同胞の骨腫瘍、性器癌と親の白血病、呼吸器系癌と親の消化器系癌、泌尿器系癌と親の性器癌、軟部組織腫瘍と親の消化器系癌、内分泌系腫瘍と親の消化器系癌、骨腫瘍とおじおばの消化器系癌、交感神経系癌とおばの性器癌などの異なる臓器癌の発生率の有意の上昇が示された。 2)PNET(未分化神経外胚葉性腫瘍)は腫瘍細胞にt(11;22)(q24;q12)、EWS-FLI1融合遺伝子が存在することから、最近、疾患概念が確立した疾患で、種々の部位に発生し診療科が異なるため発症実態が明らかでない。1985年から1997年の診断例16,058例中、100例が検索され、PNETの発症率は小児人口100万人あたり年間0.78人(中枢型0.18、末梢型0.56)と推定された。発生年齢の中央値は中枢型は2歳9ヶ月、抹消型は8歳6ヶ月で中枢型PNETは末梢型に比して有意に若年で発症していた(p=0.03)。PNET患児の4%の親が種々の臓器がんに罹患しており、成人期には小児期とは異なるがんの危険性が高まる可能性が示唆された。家系員3名に悪性腫瘍発生があるPNET症例の腫瘍細胞および末梢血単核球に種々の腫瘍に関与が報告されているhSNF/INI1遺伝子の変異が観察され、家系員での検索を進めている。
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