研究概要 |
わが国における癌死亡原因の第1位である肺癌を、一つの『疾患』として統合的に理解することを目指し、多面的な分子病態解析研究を展開し下記の成果を得た。 (1)ヒト肺癌の遺伝子発現プロファイル解析を、肺癌の発生・進展に直接関与するp53、EGFR、K-ras遺伝子などの変異に関するデータが付随する149症例、21,619遺伝子を対象に進め、転帰に関する臨床情報の精度や遺伝子発現情報の欠測データフラッグの少なさなど、種々の点で極めて高い精度の網羅的遺伝子発現プロファイル情報を得た。現在、各種遺伝子異常などの分子病態との関連性の検討や、オーダーメイド医療に貢献可能な精度を持つ予後予測モデルの構築を進めつつある。 (2)網羅的遺伝子発現解析をおこなった149例中140例を含む174症例のヒト肺癌外科切除例をMALDI-TOF-MSを用いて解析し、2,000を超えるピークに対応する蛋白の網羅的発現プロファイル情報を得た。現在さらに、転移・再発・死亡と密接な関連を示すピークや、遺伝子変異に伴って変動しているピークの同定などを進めつつある。 (3)我々が樹立した高転移性ヒト肺癌細胞亜株(NCI-H460-LNM35)とヒト肺癌検体における8,644遺伝子の網羅的遺伝子発現情報を統合的に解析・検討し、転移モデル系における細胞生物学的役割の実証と、実際の肺癌を含むヒト癌腫の分子病態への関わりの検証に耐え得る45個の遺伝子からなる転移関連遺伝子群の同定に成功した。現在、その機能解析を順次進めつつある。 (4)ヒト肺癌におけるlet-7マイクロRNA遺伝子の発現低下とその臨床病態への関連性を初めて示し、ヒト癌の発症・進展におけるマイクロRNA遺伝子異常の関与の可能性を示す結果を得た。また、染色体DNAの不十分なデカテネーションを感知するデカテネーションG2チェックポイントの上流経路に異常が存在することを示唆する結果を得た。
|