研究課題
造血幹細胞の増殖と分化は骨髄などの造血組織の微小環境(Niche)によって制御を受けており、この微小環境による幹細胞の制御機構は、がん細胞が悪性化してゆく際の間質との相互作用の役割を考える上からも重要である。本研究では、間質細胞依存に増殖する未分化血液細胞株を用いて、間質細胞の制御因子の機能解析を行い、以下のような結果を得た。(1)未分化血液細胞の増殖には、sphingosine-1 phosphateやLysophosphatidic acidなどの脂質が必要であり、血液細胞の間質細胞への潜り込みなど運動性を制御していることを明らかにした。(2)赤血球造血支持機能を示す骨髄間質細胞において、tenascin-cが支持細胞株で有意に発現が高いことを確認し、siRNAによりその発現を低下させると赤血球支持機能の低下が認められ、間質細胞の赤血球前駆細胞増殖制御の重要な因子であることを実証した。(3)造血幹細胞維持機能の高い間質細胞株に強い発現が認められる遺伝子(MysPDZ=Myo18A)を単離し、そのドメイン構造に依存して細胞内顆粒および細胞膜直下の局在、細胞内の移動や細胞内輸送が制御される事を示した。(4)ephrinB2の発現が血液細胞の運動性を規定し、その受容体としてのEph受容体とともに細胞間の双方向のシグナル伝達に関係し、未分化血液細胞の分化の可塑性の制御を担う分子として機能していることを示した。(5)造血微小環境を構成する骨髄間質細胞が間葉系幹細胞の性状をもつことを示した。とくに、数株の細胞の培養系で拍動する心筋への分化誘導が起きることを確認した。また、いくつかの間質細胞株が骨格筋、平滑筋、骨、脂肪、内皮細胞などに分化する能力を持つ間葉系の幹細胞の性状を持つことを明らかにした。
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