本研究は、プロトオンコジーンAktのターゲットを明らかにすることで、Aktの癌化誘導メカニズムの理解に迫ることを目的とした。Aktが癌化を誘導する機構として、細胞増殖と生存の促進が考えられている。本研究では、特にAktが細胞生存を促進する際のターゲットを検討し、新たにNur77およびカスペース9がAktの基質であることを明らかにした。 Aktはアポトーシスシグナル伝達の様々なステップをターゲットにして生存を促進する。近年、Aktがアポトーシス誘導に関与するForkhead等の転写因子をリン酸化することが報告されている。本研究では、負の選択において未成熟T細胞のアポトーシス誘導に関与することが知られている転写因子Nur77が、Aktのターゲットのひとつであることを明らかにした。Aktは、Nur77のSer350をリン酸化することによって、Nur77の転写活性およびアポトーシス誘導活性を抑制した。AktによるNur77のSer350リン酸化は、Nur77のDNA結合活性を抑制するとともに、Nur77の14-3-3結合を誘導し、転写活性の抑制を引き起こすことが示された。 カスペースは、アポトーシスの実行に関わるプロテアーゼのファミリーである。カスペースはカスケードを構成しており、カスペース9はカスペースカスケードの起点に位置する分子である。種々のアポトーシス刺激は、ミトコンドリアからcytochrome cの放出を促し、cytochrome cによるApaf-1/カスペース9複合体の活性化を誘導する。我々のグループは以前に、Aktがcytochrome cによるカスペースカスケードの活性化を抑制することを見いだしている。本研究においてAktがカスペース9の2つの部位を特異的にリン酸化し、カスペース9のApaf-1への結合能を抑制していることをはじめて示した。この結果は、Aktがミトコンドリアから下流のアポトーシスシグナルを抑制する分子機構を説明するものである。
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