研究概要 |
本研究は、癌原遺伝子Aktのターゲットと機能を明らかにすることで、Aktの癌化誘導メカニズムの理解に迫ることを目的としている。本研究において、癌原遺伝子産物Aktが繊維芽細胞の増殖因子依存的な細胞運動の促進に主要な役割を果たすことを見いだした。また、Aktが低分子量Gタンパク質Rac,Cdc42の下流で活性化し、Rac,Cdc42による細胞運動能の上昇に関与することを示した。さらに癌抑制遺伝子PTENの欠失によって細胞運動能の上昇を引き起こした細胞においてもAktが運動性の制御に主要な役割を果たしているという結論を得た。これまでに、Aktの活性化あるいは遺伝子増幅が、癌の悪性化(浸潤能の上昇)と密接に結びついているという報告がなされていたが、そのメカニズムについては必ずしも明らかではなかった。本研究によってAktと哺乳類細胞運動性の関連を示したことは、Aktによる癌悪性化のひとつのメカニズムを示唆した点で意義深いと考える。 また、本研究においてはAktのMdm2リン酸化についても検討した。昨年度までに、P53のユビキチンリガーゼとして働くMdm2のSer186を、Aktが直接にリン酸化することによって、p53のユビキチン化及び分解を促進することを示した。しかしながらMdm2のSer186だけでなくSer166もAktの良い基質となり、またSer166をAlaに変異したMdm2では野生型Mdm2よりも細胞癌化活性が低いことが明らかになった。そこで現在Mdm2のp53以外のターゲットについて検討中である。
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