転写制御の異常と細胞の増殖・分化

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12215022
• 研究種目: 特定領域研究(C)
• 研究機関: 慶應義塾大学
• 研究代表者: 井上 純一郎 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (70176428)
• 研究分担者: 佐竹 正延 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (50178688) ; 仙波 憲太郎 東京大学, 医科学研究所, 助教授 (70206663) ; 秋山 泰身 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (50327665)
• キーワード: 転写制御 / シグナル伝達 / TRAFタンパク質 / Gタンパク質 / WT1 / PEBP2 / AML1

研究概要

転写因子NFκB,WT1,PEBP2βの活性制御と細胞機能の関係を解析した。
1 TRAF6欠損細胞にTRAF6変異体を発現させ、TRAF6の生理的な機能領域を同定した。N端側にあるRING finger及び5つの中の最初のZn fingerはNFκB活性化に必須でなかった。しかし、この領域はMAPK活性化に関与した。またNFκB活性化においてLPSの場合2と3番目のZn fingerを必要としたが、IL-1は4と5番目を必要とした。本結果は、TRAF6がZn結合領域中に複数の機能部位を有し、その部位により複数の下流タンパク質にシグナルを伝達することを示唆する。
2 本GTP結合タンパク質をCEGA(conserved ERA like GTPase)と命名した。リコンビナントCEGAタンパク質は、GTP及びRNAと結合した。またGTP結合部位への点変異導入により細胞死誘導活性が観察された。即ち、CEGAはシグナル依存性にGDP/GTP交換反応を行い細胞死誘導シグナルを伝達すると考えられる。
3 WT1はGATA-1との結合を介して、GATA依存性転写を協調的に促進すると同時に血球分化を制御するFOG-1の転写抑制作用を無効にした。今後はGATA-WT1の融合遺伝子を用いて、細胞増殖と分化への影響および標的遺伝子の検索を行う。
4 PEBP2β-SMMHCキメラ蛋白及び正常PEBP2β蛋自の局在を白血病細胞を用いて解析した結果、細胞膜と核の両画分に存在した。キメラ蛋白・PEBP2β蛋白のパートナーであり、DNA結合能のあるAML1蛋白は、核のみに分布した。キメラ蛋白とAML1蛋白の一部が、核マトリックスで共局在することを蛍光抗体法により確認した。従ってキメラ蛋白によるPEBP2依存性転写の脱制御は核内の事象と考えられる。一方細胞膜でキメラ蛋白は、細胞骨格系に関わると考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Kobayashi,N.: "Segregation of TRAF6-mediated signaling pathways clarifies its role in osteoclastogenesis"EMBO JOURNAL. (in press). (2001)
• [文献書誌] Sharma,K.M.: "Aurine Tricarboxylic Acid, a potent metal-chelating inhibitor of NFκB-DNA binding."Bioorg.Med.Chem. 8. 1819-1823 (2000)
• [文献書誌] Hatzoglou,A.: "Tumor necrosis factor receptor family member BCMA (B-cell maturation) associates with TRAF1,TRAF2 and TRAF3 and activates NF-kB, Elk-1 and c-Jun N-ter-minal kinase."J.Immunol. 165. 1322-1330 (2000)
• [文献書誌] Matsumoto,N.: "Synthesis of NF-κB activation inhibitors derived from epoxyquinomicin C."Bioorg.Med.Chem.Lett.. 10. 865-869 (2000)
• [文献書誌] Inoue,J.: "Tumor necrosis factor receptor-associated factor (TRAF) family : adapter proteins that mediate cytokine signaling."Exp.Cell Res. 254. 14-24 (2000)
• [文献書誌] 井上純一郎: "TRAF6シグナルの生理的役割"Molecular Medicine. Vol.37. 110-117 (2000)