形態形成にかかわるシグナル分子Wnt/Wingless(Wg)の生物活性については、様々なモデル動物を用いて分子生物学的研究がなされいる。また各種のWntシグナル伝達異常によって引き起こされたβ-cateninの蓄積が細胞のの癌化の原因となっている事も知られている。本研究の目的は、Wnt/Wgに感受性を持つDrosophilaや哺乳動物の培養細胞と、可溶性のWnt/Wg蛋白を用いて、Wnt/Wgシグナル伝達に関わる遺伝子産物の生化学的相互作用の実体を解明する事である。最近Xenopus胚を用いた解析から、Casein kinase I(CKI)が、Wntシグナル伝達の正の制御因子であるとの報告がなされたが、その普遍性は他の動物系を用いて、検証されているわけではなかった。そこで、本研究ではDrosophilaの系を用いて、CKIのWgシグナル伝達経路における役割の解析を行った。Schneider S2R+細胞をDrosophilaのCKIα及びεのdouble stranded RNA(dsRNA)の存在下で培養するin vitro RNAi法を行って、CKIα及びε蛋白の産生を阻止した。するとXenopus胚を用いた結果に反し、著しいArmadillo(Arm)蛋白質の蓄積が生じた。なおRNAiによってArmのmRNAの変化は認められない事からCKIα及びε、はArm蛋白質の安定性を負に制御していることが明らかとなった。さらにDrosophilaの胚に同じdsRNAを注入して、胚におけるCKI蛋白の産生を阻止したところ、Wgシグナルが過剰に流れた事を意味するNaked cuticleの表現型を持つ胚が発生した。これらの結果は、Drosophilaでは、CKIはWgシグナル伝達の負の制御因子として働いている事を示すものであった。
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