MAPキナーゼ(MAPK)は、細胞外からの刺激で活性化され、ほ乳動物では、ERK、JNK/SAPK、p38の三つの異なったMAPKカスケードが知られている。これらのカスケードは、細胞の分化や増殖、ストレス応答や細胞死などのシグナル伝達過程で重要な役割を果たし、がんとも密接に関連すると考えられる。チロシンだけに特異的な脱リン酸化酵素(狭義のPTP)やdual-specificity脱リン酸化酵素のMKPは、MAPKに結合しこれを脱リン酸化/抑制する。その、ほ乳動物における生理的意義を明らかにするため本年度は、以下の解析を行った。 1)MAPK脱リン酸化酵素群の多様性の検討 Tリンパ球でPTP、MKP合わせて8種のMAPK脱リン酸化酵素が発現していた。これらは、MAPK特異性、細胞内局在、抗原受容体刺激後の誘導様式に多様性を認めた。 2)PTPのERKによるリン酸化とその意義 LC-PTPのThr66、Ser93がERKによってリン酸化されること、リン酸化部位をAlaに置換した変異型LC-PTPでERKへの抑制作用が弱まることを明かにした。LC-PTPがERKによるリン酸化で制御される可能性を示した。 3)sem型MAPKノックインマウスの作成。 脱リン酸化酵素群と結合せず、抑制に抵抗性のsem型p38MAPKをノックインしたマウスを作成した。このマウスは、p38の抑制系が働かない状態となり、事実p38の活性化亢進を認めている。 今後、MAPK抑制機構の生理的意義の解析に使用する。
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