研究概要 |
1 ras癌遺伝子依存性の発癌におけるRasエフェクター・ホスホリパーゼCε (PLCε)の役割を個体レベルで解析するため、PLCε遺伝子ノックアウトマウスを作製し、7,12-dimethylbenzanthracene (DMBA)をイニシエータ、12-0-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)をプロモータとした二段階皮膚化学発癌実験を行なった。その結果、PLCεノックアウトマウスでは、野生型マウスに比べパピローマの発生時期が著明に遅延し、パピローマの発生個数が約4分の1に減少した。更に、扁平上皮癌へのプログレッションが全く起こらなかった。発生した腫瘍では全てH-ras遺伝子の61番目のコドンに活性型変異が見られた。この結果は、PLCεがras依存性の発癌に重要な役割を持つことを示し、PLCεが抗癌剤開発の新しい分子標的になりうることを示唆した。 2 PLCεノックアウトマウスは、半月弁形成異常による半月弁狭窄と逆流に起因する中等度の心室拡張を示した。この表現型は、上皮細胞増殖因子(EGF)受容体の活性低下変異マウスやヘパリン結合性EGFノックアウトマウスの表現型と酷似しており、PLCεがEGF受容体下流でRasのエフェクターとして半月弁形成に関わっていることが示唆された。 3 非常に構造が類似した低分子量G蛋白質RasとRap1が各々細胞膜とゴルジ装置という異なった細胞内局在を示す機構を一部解明した。両者のアミノ酸番号85-89の5残基の交換により細胞内局在が逆転する事を発見し、この小領域が局在特異性の決定に必要十分であることを示した。 4 X線結晶解析により、低分子量G蛋白質M-Ras (R-Ras3)のGDP, GTP結合型の高次構造を解明し、GTP結合認識機構とエフェクター結合認識機構がRas, Rap1とかなり異なることを示した。
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