研究概要 |
胚細胞腫瘍においては合胞体性巨細胞(syncytiotrophoblastic giant cell,STGC)がしばしば出現する。STGCはtrophoblast系譜細胞で組織侵襲性が強い,ポリ(ADP-リボース)合成酵素(Parp)欠損ES細胞をヌードマウスに移植後、生じる腫瘍にSTGCが出現する。そこで野生型及びParp欠損ES細胞をヌードマウス皮下に移植し、生じる腫瘍のセクションのin situ hybridizationを行ない、STGC誘導過程での遺伝子発現の変動を調べた。Parp-1欠損ES細胞由来腫瘍のSTGCはtrophoblastの分化マーカーproliferin(Plf),placental lactogen I(PlI)及びproliferin related protein(Plfr)陽性であった。STGC細胞集団内には、小型のtrophoblast系譜の初期の分化細胞spongiotrophoblastが存在していることが、そのマーカー遺伝子Tpbp/4311の発現でわかった。Tpbp/4311陽性細胞は、野生型ES細胞由来の腫瘍には、認められなかった。Parp-1欠損下でspongiotrophoblastへの分化が亢進していると考えられる。PlI、Plf及びPlfrは、prolactinファミリー分子であり、trophoblast giant cellで発現している。腫瘍のSTGCは、胎盤のtrophoblastと同様な分化過程を経て出現することが示唆された。STGCは、血管新生に機能するPlf、Vegf、血管拡張に働くadrenomedullin、及びeNos陽性であり、腫瘍への血液供給に関与する可能性が考えられる。
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