t(8;21)転座急性骨髄性白血病のAML1-MTG8キメラ転写因子は、G-CSFにより誘導される骨髄系細胞の好中球分化を阻害し、G-CSFに依存した増殖を誘導する。本研究では、DNAチップを用いた遺伝子発現プロファイリングにより、このG-CSFシグナル伝達系の異常の解明を試みた。まず、AML1-MTG8を発現させた細胞とコントロール細胞の比較から、AML1-MTG8がG-CSF receptorとMAP kinaseに対するphosphataseであるPAC-1の発現を上昇させることを見出した。また、DNAチップを用いてAML1-MTG8を発現させた細胞及びコントロール細胞においてG-CSF刺激に対して誘導される初期応答遺伝子を同定、比較し、AML1-MTG8により初期応答遺伝子の誘導が全体的に増強されるが、その増強の度合いは遺伝子間で異なることが明らかとなった。そこで、G-CSFの主要なシグナル伝達分子であるSTAT3、MEK1/2、ERK1/2のG-CSF刺激後のリン酸化レベルをリン酸化タンパク質特異的抗体を用いて調べた。その結果、コントロール細胞、AML1-MTG8発現細胞、G-CSF receptor強発現細胞の順にリン酸化は上昇するが、G-CSF receptor強発現細胞にAML1-MTG8を共発現させるとSTAT3、MEK1/2のリン酸化は変化せず、ERK1/2のリン酸化は顕著に低下することが明らかとなった。AML1-MTG8はG-CSF receptorの発現を上昇させることによりG-CSFシグナル全体を増強させるとともに、PAC-1の発現を上昇させERK1/2を脱リン酸化することによりERK1/2以降のシグナルを低下させているものと考えられた。
|