申請者はHeLa細胞を上皮増殖因子(EGF)刺激するとRacl→ARF→ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼのシグナル経路を介してラッフル膜が形成されることをすでに報告したが、EGF受容体(EGFR)→Rac1のシグナル伝達経路は不明であり、この点について解析したところ、以下の結果を得た。EGFRは、EGF刺激に伴いその細胞内C末端領域の5つのチロシン(Tyr)残基が自己リン酸化されることが知られている。これらのTyr残基をフェニールアラニンに置換したEGFR変異体をHeLa細胞に過剰発現させてEGF刺激によるラッフル膜形成を解析したところ、EGFRのTyr992が重要であることが明らかとなった。このリン酸化Tyr992にはホスホリパーゼC(PLCγ1)がそのSH2ドメインを介して結合してシグナルを下流に伝達することが知られているが、野生型およびドミナントネガティブPLCγ1ともにEGF刺激によるラッフル膜形成を阻害した。このことから、PLCγ1とは異なるアダプター分子がラッフル膜形成に関与する可能性が示唆された。CrkIIは、N末端側に1つのSH2ドメインを持ち、そのC末端側に2つのSH3ドメインを有する分子で、インテグリンによるラッフル膜形成に重要であることが知られている。そこで、CrkIIをHeLa細胞に強制発現させると、EGFにより形成されるラッフル膜は顕著に促進され、C末端側SH3ドメインを欠いたCrkIIスプライシングバリアントのCrkIを過剰発現させるとEGFによるラッフル膜形成は阻害された。これらの知見から、EGF刺激によるラッフル膜形成シグナリングにおいては、自己リン酸化されたTyr992にCrkIIが結合し、C末端側SH3ドメインを介してシグナルが下流に伝達される可能性が示唆された。
|