研究概要 |
エチニルシチジン(ECyd)は,がん細胞中に酵素活性が高いuridine-cytidine kinase-2 (UCK-2)により最初のリン酸化を受け,さらに三リン酸体に代謝されてRNA polymerasesを天然の基質CTPと競合的に阻害し,その後のシグナル伝達によりアポトーシスを誘導してがん細胞死に誘導する新規ヌクレオシド系抗がん剤であり,現在,米国で固形癌を対象とする第1相臨床試験が進行中である.今後の臨床試験を考えて,ECydとX-線照射との併用実験をin vitroおよびin vivoで行った.In vitroでは,ヒト胃腺がん細胞MKN45やKATOIII,マウス大腸腺がん細胞Colon26に対して,それぞれ単独では細胞死を起こさない低濃度のECydと放射線の併用により,G2期停止の解除と抗アポトーシスタンパクBcl-2ならびにsurvivinの発現抑制が起こり,アポトーシスを増強することが明らかになった.一方,Colon26細胞をBALB/cマウスに移植し,放射線または,ECyd単独処置による抗腫瘍効果を元に,それぞれの投与量や照射量を決定した後に,併用効果が得られるかどうかを調べた.その結果,0.1mg/kgのECyd処理群や2GyのX腺照射のみの群では,腫瘍増殖が変化しなかったが,併用した群では,強い増殖抑制が観察された.さらに,1日おきに3回の併用処置を行ったところ,半数のマウスの腫瘍消失が認められた.この結果は,ECydの抗腫瘍効果がX腺照射により増強されたことを示している.さらに,組織切片を調べたところ,血管内皮細胞のアポトーシス像が観察され,これが原因で効果の増強が計られていると考えられた. 一方,ECydの最初のリン酸化酵素であるUCK-2の結晶構造解析に成功した.さらに,UCK-2と阻害剤であるCTPとの共結晶,基質であるシチジンとの共結晶,リン酸ドナーミミックであるATPγSとの共結晶も得られており,これらを用いる構造解析によりさらに基質性の高いヌクレオシド誘導体が設計できる可能性がある.
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