研究概要 |
これまでに様々な細胞内因子がシスプラチンに対する耐性獲得因子として同定されてきたが,これらは共に一部のシスプラチン耐性細胞の耐性獲得因子となっていると考えられるものの,臨床上問題となる耐性がん細胞の中にはこれらの因子ではその耐性獲得機構を説明できない例も数多く存在する。我々は,遺伝子スクリーニングにより、酵母に強いシスプラチン耐性を与える機能未知の酵母遺伝子CRP1(HI22)およびCRP2を単離した。今回はCrp1およびCrp2の作用機構について検討した。両蛋白質は共にC末側にロイシンジッパー塩基性領域(bZip)を持ち、その構造上の特徴から転写因子であると考えられたが、GFPとの融合蛋白質強制発現法によりCrp1およびCrp2が共に常に核に局在する蛋白質であることが判明した。酸化的ストレスに応答し、ジアミドや過酸化水素などに対する耐性に関与する酵母転写因子として知られるYap1とCrp1またはCrp2との関係を検討したところ、CRP1またはCRP2遺伝子の高発現によって認められるシスプラチン耐性がYAP1遺伝子の欠損により増強され、さらに、ジアミドにより誘導されるYap1の転写活性がCrp1およびCrp2によって抑制されることが判明した。これらの結果は、Crp1またはCrp2がYap1の転写活性を抑制することによって酵母にシスプラチン耐性を与えている可能性を示唆している。この可能性は、Crp1が示すシスプラチン毒性軽減作用とYap1転写活性抑制作用に必要な最小ドメイン(蛋白質中領域)が一致することからも支持された。以上の結果から、酵母内にはシスプラチン毒性の発現を促進する蛋白質が存在し、Crp1およびCrp2はこの蛋白質の発現を抑制することによってシスプラチンの毒性を軽減するものと考えられる
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