がん細胞のアポトーシス抵抗性を標的とする抗がん物質の探索

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12217030
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 早川 洋一 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教授 (20208606)
• キーワード: アポトーシス / 増殖因子 / IGF / QN23319 / 分子シャペロン / GRP78 / versipelostatin / 小胞体ストレス

研究概要

アポトーシス抑制性の増殖因子IGFに依存して増殖するがん細胞に対して選択的に作用する物質を探索した結果、未同定の土壌分離糸状菌から活性物質QN23319を単離した。QN23319はユニークなアルキルフェノール誘導体であり、NMR解析と分解実験によりその立体構造を決定した。QN23319は無血清培地中でIGF-1に依存して生育するヒト乳がん細胞MCF-7およびT-47Dの増殖を低濃度で抑制したが(IC_<50>9.7ng/mlおよび32ng/ml)、血清含有培地中における増殖抑制は高濃度でのみ観察された。また、QN23319はこれらの細胞のエストロゲン依存性増殖も阻害した。
小胞体ストレスに応答して発現上昇する分子シャペロンGRP78は固形がんのアポトーシス抵抗性に関与することが知られている。GRP78プロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を挿入したレポータープラスミド導入細胞を用いてGRP78の発現抑制物質を探索した結果、Streptomyces versipellisと同定した放線菌から新規活性物質versipelostatinを単離した。本化合物は3分子の糖を含むテトロン酸マクロライドであり、NMRスペクトルの詳細な検討によりその立体構造を決定した。versipelostatinは、低グルコースや2-デオキシグルコース処理により誘導されるGRP78の発現をタンパク質レベルおよびmRNAレベルで抑制し、低グルコース環境における固形がん細胞に対して選択的細胞死を誘導した。さらに、versipelostatinはMKN74ヒト胃がんを移植したヌードマウスを用いたin vivo試験において抗腫瘍活性を示した。

研究成果

• [文献書誌] Yoichi Hayakawa: "Gymnasterol, a new antitumor steroid against IGE-dependent cells from Gymnascella dankaliensis"Tetrahedron Letters. 44. 1165-1166 (2003)
• [文献書誌] Toshiya Mori: "Byssochlamysol, a new antitumor steroid against IGF-1-dependent cells from Byssochlamys nivea. I.Taxonomy, fermentation, isolation_and_biological_activity"The Journal of Antibiotics. 56. 1-5 (2003)
• [文献書誌] Toshiya Mori: "Byssochlamysol, a new antitumor steroid against IGF-1-dependent cells from Byssochlamys nivea. II.Physico-chemical properties and structure elucidation"The Journal of Antibiotics. 56. 6-8 (2003)
• [文献書誌] Yoichi Hayakawa: "Oximidine III, a new antitumor antibiotic against transformed cells from Pseudomonas< sp. I.Taxonomy, fermentation, isolation, physico-chemical properties and biological activity"The Journal of Antibiotics. 56. 899-904 (2003)
• [文献書誌] Yoichi Hayakawa: "Oximidine III, a new antitumor antibiotic against transformed cells from Pseudomonas sp. II.Structure elucidation"The Journal of Antibiotics. 56. 905-908 (2003)