研究概要 |
超音波による細胞死、特にアポトーシスの誘導と遺伝子発現について検討した.超音波照射時の試料溶液の溶存気体の種類を変えることで活性酸素の生成が制御できることを示した既報の結果を踏まえて、キャビテーションによるOHラジカル生成が認められるArと認められないN_2O条件で比較した.U937細胞を用い細胞死を調べたところ,Ar存在下で1MHzの超音波を照射し細胞死を6時間後に調べた時、早期アポトーシス(約9%)と二次的ネクローシス(約17%)が誘導された.一方,N_2O存在下では,これらの細胞死は殆ど認められなかった. 網羅的に遺伝子発現を調べるため、9,182個の遺伝子がスポットされたUniGEMV Ver2.0(Incyte Genomics)を用いて,ArとN_2O存在下の超音波照射によって誘導される遺伝子群を比較解析した.N_2O存在下ではkeratin 1遺伝子の発現量が減少するのみであり,この条件では遺伝子の発現に殆ど影響がないことが明らかとなった.一方,Ar存在下では5種類の遺伝子の発現量が増加,2種類が減少した.半定量的RT-PCR法を用いてこれらの遺伝子の発現変動を検討した結果,v-jun 17 oncogene homologとheme oxygenase 1が増加,cathepsin Gとv-myb onco-gene homologが減少することを確認した.また,Ar存在下の条件において,他の酸化的ストレスに関連する遺伝子群の発現量は変化しなかった.これらの結果はAr存在下超音波照射により発生するキャビテーションがアポトーシス生成と関連することおよびこのとき誘導される酸化的ストレスがheme oxygenase1の発現上昇に関係することを明らかにした.
|