アポトーシスは不要、危険な細胞を排除するための細胞自殺機構であり、この機構の損傷は発癌の1ステップと考えられている。また、種々の抗がん剤や放射線照射によるがん細胞の死がアポトーシスであることが明らかにされてきた。従って、アポトーシスの分子機構の解明は新たな抗がん剤や癌治療法の標的分子に成りうると考えられる。様々なアポトーシス誘導系で、ミトコンドリアからのチトクロムc等の放出がシグナル伝達の要に位置している。そこで、アポトーシスにおけるミトコンドリアからのチトクロムc放出機構を明らかにするため、これに関連するミトコンドリア蛋白に対する抗体を樹立することを目指した。まずシトクロームcを高感度に検出するハイスループットアッセイ系としてELISA系を構築した。この系では1 ngのシトクロムcを有意に検出できた。次に、ラット肝臓より精製したミトコンドリアを免疫源としてハムスターを免疫し、リンパ節細胞より570株のハイブリドーマを作成した。これらハイブリドーマが産生する抗体中には単離ミトコンドリアに直接チトクロムc放出を誘導できる抗体は確認できなかった。総ミトコンドリア蛋白に対するELISAおよびウェスタンブロット解析から認識抗原の多様性は維持されており、未変性蛋白のみを認識する抗体の存在も確認されたが、今後さらに多くのハイブリドーマを解析する必要があると考えられた。チトクロムc放出におけるVDACの3つのアイソフォームの役割を検討するため、各々に対するリボザイムを計9種類設計、構築したが、レポーター遺伝子を用いた解析からは特異的な遺伝子発現の抑制は認められなかった。
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