研究概要 |
イリノテカンはプロドラッグであり、エステラーゼによって母化合物の数百倍高い抗腫瘍活性を示す活性代謝物SN-38に変換され、主に肝臓でグルクロン酸抱合を受けて胆汁から排泄される。イリノテカンによる副作用の個人差は、SN-38の薬物動態に関連があると報告されている。SN-38の代謝的解毒過程であるグルクロン酸抱合は、グルクロン酸転移酵素(UDP-glucuronosyltransferase,UGT)の分子種であるUGT1A1によって行われる。UGT1A1には遺伝子多型が存在しそれぞれの多型により酵素活性が異なることから、多型の解析は本酵素によって代謝される薬物の副作用発現の個人差を説明しうる可能性がある。しかし未だそれらの関連を検討した報告はない。 過去にイリノテカンの投与を受けた118名の患者より同意を得た上で採取した末梢血液からゲノムDNAを調製し、UGT1A1の遺伝子多型を検索した。検討した多型はプロモーター領域の(TA)_7TAA(UGT1A1^*28)、エクソン1の211G→A(UGT1A/^*6)、686C→A(UGT1A1^*27)、エクソン4の1099C→G(UGT1A1^*29)、エクソン5の1456T→G(UGT1A1^*7)である。Grade4の白血球減少またはgrade3以上の下痢が認められた者は26名、認められなっかたものは92名であった。UGT1A1以外に重篤な副作用に寄与する因子として、性、化学療法の内容(イリノテカン単独、イリノテカンと白金製剤、イリノテカンと白金以外の製剤)、イリノテカンの投与スケジュールが候補となった。これらの因子を加味して多要因解析を行ったところ、UGT1A1^*28の寄与度は(odds ratio,7.23;95%CI,2.52-22.3;p<0.001)と補正された。イリノテカンの使用に際してUGT1A1の多型を検討することは副作用防止に有用である。 本研究は名古屋大学医学部倫理委員会の承認を受けて実施されたものである。
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