研究概要 |
ヒトγδ型T細胞は微生物由来のピロリン酸モノエステルやアルキルアミン等の非ペプチド性抗原を感染パターンとして認識する。すなわちγδ型T細胞はその受容体を一種のパターン受容体として用いることにより、微生物感染ををパターン認識する自然免疫系の細胞種であると考えられている。本研究においては、ヒトγδ型T細胞の有する免疫監視機構に焦点を当て、新しい抗腫瘍免疫療法を開発するために様々な基礎的検討を加えた。まず、ピロリン酸モノエステル系抗原により末梢血中のγδ型T細胞の増殖を試みた結果、千倍から一万倍の顕著な増殖がみられた。次にその抗腫瘍作用を検討した結果、膀胱がん、腎臓がん、骨肉腫、大腸がん、肺がん、膵臓がん等に著しい細胞障害性がみられた。さらに、非ペプチド性抗原をターゲティング標識した腫瘍細胞株に対する作用を検討した結果、著しい活性の上昇がみられた。この細胞障害作用に関してTCR依存性を検討した結果、Vγ2,Jγ1.2,Vδ2依存性が明らかとなった。また、N領域の多様性の検討を行った結果、γ鎖、δ鎖ともに幅広い配列の変化がみられ、各領域の組み替えの際の塩基対欠失および添加はTCRの抗原特異性にはほとんど影響しないことが明らかとなった。以上の結果を総合すると、γδ型T細胞がピロリン酸モノエステルやアルキルアミン等の非ペプチド性抗原を感染パターンとして認識する際に、遺伝子の再構成よりもジャームラインにユードされたVγ2,Jγ1.2,Vδ2領域のアミノ酸配列が本質的な役割を果たしていることが示唆された。さらに、非ペプチド性抗原によるターゲティング標識が可能であることが明らかになったことから、自然免疫的な免疫監視機構を利用した非特異的側面と非ペプチド性抗原標識を用いた特異的側面の両者を同時に利用することが可能となり、より強力な抗腫瘍免疫療法の展開が示唆された。
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