がん治療の最適化療法の実践にむけての基盤づくりは極めて重要である。そのために我々は本研究で、抗がん剤の感受性とがんの血管新生の分子機序のメカニズムを明らかにしながら、有用な分子標的を提示しがん治療薬の開発とがん治療の個別化へ貢献することにした。その結果、2002年から現在までに以下の知見を得た。 1.抗がん剤の感受性を制御する分子標的に関して:以下の成果を得た。 (1)我々が初めて単離したABCトランスポーターMRP2やMRP3認識する抗がん剤と関連する構造ドメインを明らかにし、さらに肝や腸の癌部位での発現上昇を観察した。 (2)P-糖蛋白質/MDR1に関しては、がんでの発現にプロモーターCpGサイトのメチル化の有無やYB-1の核内局在が臨床がんの発現上昇や多剤耐性に関与していた。 (3)YB-1はp53やPCNAと結合することやその核内局在ががん患者の予後に関連することやYB-1の翻訳制御への関与を明らかにした。 (4)EGFレセプターの変異にかえて肺癌細胞の増殖や細胞死にEGF/EGFレセプターのシグナルがどれだけ緊密に依存しているかが、ゲフィチニブ(イレッサ)の感受性に重要であった。 2.がんの血管新生に影響を与える間質応答に関して以下の成果を得た。 (1)VEGF受容体を標的とする阻害剤SU5416はFltだけでなくFlt-1のシグナルも阻害すること、更にゲフィチニブが血管新生を阻害する活性を示すことは幾つかのモデル系で明らかにした。 (2)TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインによって誘導される血管新生(炎症性血管新生)では可溶VCAMやインテグリンまたシクロオキシゲナーゼ2の活性化が重要な鍵をにぎっていた。 (3)炎症性サイトカインによって誘導される血管新生にはマクロファージの誘導が重要であることを標的薬剤を用いて明らかにしている。
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