腫瘍は血管新生を誘導し栄養路を確保しながら成長する。この腫瘍血管新生を抑制できれば効率的な癌の退縮が達成される可能性が高い。強力な血管新生因子であるVEGF(Vascular endothelial growth factor)に注目し、その作用を特異的に抑制して抗腫瘍血管新生療法の有用性を検討した。ヒト肺癌由来の14種の細胞を準備して培養上清中のVEGFを測定すると、すべての癌細胞でVEGFが検出され、その産生能と造腫瘍能には相関を認めた。細胞外領域のみの可溶型VEGF受容体(flt-1)を作成しアデノウイルスに組み込んだ。産生される可溶型受容体はVEGFに結合しその作用を特異的に抑制した。ヌードマウス皮下に癌細胞を移植し生着したあと、可溶型VEGF受容体遺伝子を筋肉内に1度だけ導入すると、可溶型受容体が循環血中に検出され、腫瘍の成育はある程度の大きさで止まり以後はむしろ退縮した。腫瘍内では血管新生が阻害され癌細胞のアポトーシスが亢進していた。可溶型VEGF受容体は造腫瘍能を検討した6種の癌細胞のうち5種で有効であり、汎用性も期待できる。可溶型分子であるため癌細胞すべてに遺伝子導入される必要がなく、さらに標的部位より遠隔地での発現でも効果が期待できる。また細胞増殖には直接影響を与えないので副作用も少ないと期待される。組換え蛋白としての投与も現実的であり、癌の新たな治療戦略として有望である。
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