癌細胞は遺伝子の変異が蓄積することによって異常増殖、浸潤能・転移能および血管新生能を獲得し悪性化すると考えられているが、この癌悪性化に関わる細胞内情報伝達機構に関しては、まだまだ不明な点が多いのが現状である。癌転移の成立過程、とりわけ癌細胞が基底膜や周囲の正常組織などへ浸潤していく際には癌細胞の運動能は必要不可欠な性状である。この細胞運動能を阻害する物質は、癌の転移阻害剤として期待されるし、更に血管内皮細胞の管腔形成を阻害して血管新生の抑制剤としても期待される。そこで、高い遊走能をもつヒト食道がんEC17細胞を用いてwound healing assayにより微生物二次代謝産物より癌細胞遊走能阻害物質のスクリーニングを行った。その結果、2株にがん細胞遊走阻害活性を見い出したので活性物質の単離精製を行い、新規化合物であるマイグラスタチン、ムベラスチンを単離した。各種スペクトル解析により、マイグラスタチンは側鎖にグルタルイミドを持つ新規14員環マクロライドであることが判明した。マイグラスタチンは24時間前処理することによりEC17細胞の細胞遊走を10μg/mlで阻害した。一方、ムベラスチンはサイリンドロール系化合物であり、ユニークな位置にエキソメチレン、水酸基を持つ化合物であった。ムベラスチンは10μg/mlで毒性を示すことなく細胞遊走を阻害し、転移に深く関わる因子とされるマトリゲルへの浸潤を3.3μg/mlで阻害した。
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