研究概要 |
低分子量Gタンパク質のうち、Rho, Rac, Cdc42は癌の浸潤や転移に密接に関与している。これらのGタンパク質はゲラニルゲラニル化されて活性化することが知られている。したがって、Rho, Rac, Cdc42のゲラニルゲラニル化を抑制する薬剤は、抗転移活性を有する新しいタイプの制がん剤になることが期待できる。そこで、イソペンテニルピロクォスフェート(IPP)とファルネシルピロフォスフェート(FPP),からゲラニルゲラニル基(GGPP)の合成を触媒するGGPP合成酵素の阻害剤を微生物の二次代謝産物から探索した。約5000株のスクリーニングを行った結果、カビの一種であるBeauvelia felinaが阻害物質を生産していることを見いだしたので、各種クロマトグラフィーによって活性物質を単離した。各種スペクトルデータによる構造解析の結果、新規物質であったことからゲルフェリンと命名した。ゲルフェリンは濃度依存的にGGPP合成酵素を阻害し、そのIC_<50>値は3.5μg/mlであった。また、ゲルフェリンは、IPPに対して非拮抗阻害を、FPPに対しては反拮抗阻害の阻害様式を示した。一方、RhoAはリゾホスファチジン酸(LPA)刺激によりゲラニルゲラニル化されて細胞膜に移行する。ゲルフェリンは、LPAによるRhoAの細胞膜への移行を濃度依存的に阻害した。さらに、ゲルフェリンはLPAによって誘導されるアクチンストレスファイバーの形成も抑制した。次にゲルフェリンのがん細胞の浸潤に対する影響をトランスウエルチャンバー法で検討したところ、ゲルフェリンはB16メラノーマ細胞、ヒト小細胞肺がんMs-1細胞の浸潤を濃度依存的に阻害し、この阻害はGGPPの前駆体であるGGOH添加によってキャンセルされた。これらのことから、ゲルフェリンはGGPP合成酵素を阻害することにより癌細胞の浸潤を抑制することがわかった。
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