本研究の第一の目的は、副作用として重篤な遅延性下痢が問題となっている塩酸イリノテカンCPT-11の副作用発現メカニズムを消化管上皮細胞に発現しているtransportersの発現制御あるいは輸送活性制御を考慮することにより解明していくことにある。 CPT-11投与時による遅延性下痢の発症メカニズムとしては、胆汁排泄されたCPT-11の代謝物SN38-glucronideが腸内細菌により活性体のSN38に再変換し、これが消化管上皮細胞に作用して下痢を引き起こすものと考えられている。本検討においても小腸下部の回腸部位において強い炎症が認められ、この部分で最も腸管上皮細胞のバリアー機能の低下が認められた。また、CPT-11投与ラットの小腸粘膜部のalkaline phosphatase活性が未処理ラットのそれと比較して有意に低下していたことから小腸上皮細胞部の絨毛先端部分の一部脱落が示唆された。こうした実験事実を反映して、種々の栄養物質の吸収に関与するtransporter輸送活性が有意に低下した。また、semi-quantitative RT-PCRの結果より、これらtransporterのmRNAの発現レベルも低下しており、何らかの細胞内シグナルによりこれらのtransporterの発現が抑制されている可能性も示唆された。この点に関する詳細な機構の解明については次年度の課題である。 一方、CPT-11による遅延性下痢をある種の炎症と考え、炎症性因子の一つと考えられるNOによる消化管機能のmodulationについても検討を加えた。NO donorであるSNAPにより腸管の粘膜バリアー機能は濃度依存的に低下した。ヒト消化管上皮細胞モデルCaco-2を用いてNOによるtransporter機能のmodulation機構を検討したところATB^0の発現がNOにより大きく亢進していることが明らかとなった。この発現上昇はactinomycin Dの処理により完全ではないものの有意に抑制されたことから、NOが一部発現レベルでATB^0の発現を増大させていることが示唆された。 現在、CPT-11による消化管障害によりATB^0とは異なるアミノ酸transporterおよびPEPT1 isoformであるPEPT2の発現が誘導されることを見出しており、この発現誘導にはp38MAP kinaseやNF-κBなどの因子群あるいはIL-1βや他の炎症性サイトカイン群が関与している可能性が示唆されており、この誘導機構についても検討中である。
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