固形癌の化学療法におけるシスプラチンの貢献度は非常に大きいが、シスプラチン耐性細胞の出現が治療上の大きな問題となっている。シスプラチンの感受性を規定する細胞内因子を同定し、その機能や発現調節を明らかにすることは、シスプラチン耐性の克服および効率のよい治療を行っていく上できわめて重要である。そこでシスプラチン耐性細胞で発現が亢進しているV-ATPase(プロトンポンプ)が耐性形質の獲得に関与しているかを検討した。その結果、次の点が明らかとなった。独立に単離した3つのシスプラチン耐性細胞株において細胞のpHが親株に比べて有意に高かった。シスプラチン耐性細胞においてV-ATPaseを構成するサブユニット遺伝子の発現亢進が観察された。シスプラチンのDNAへの結合はアルカリになると減少した。シスプラチン耐性細胞にプロトンポンプの機能阻害剤であるバフィロマイシンAとシスプラチンを併用投与した場合、殺細胞評価において相乗効果が観察された。以上の結果から、シスプラチン耐性細胞はV-ATPaseの発現亢進により細胞内をアルカリ化にしてシスプラチンのDNA結合を減少させて耐性を獲得していることが示唆された。また、バフィロマイシンAとシスプラチンの併用療法はシスプラチン耐性細胞に対して耐性を克服する可能性が示唆された。シスプラチンの耐性形質を獲得する機序の1つとして、プロトンポンプの発現亢進に伴う細胞内のアルカリ化によって細胞内アシドーシスおよびシスプラチンのDNA結合から回避していることが考えられる。また、プロトンポンプの機能阻害剤であるバフィロマイシンAがシスプラチンの耐性を克服する可能性があることから、プロトンポンプがシスプラチン耐性を克服するための分子標的になることが考えられる。
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