抗癌剤が癌細胞を殺す際には、癌細胞自身が持つ自殺機構(アポトーシス)が働くことがわかっており、その欠陥は癌細胞の薬剤抵抗性をもたらす。われわれは、アポトーシスの機構に異常のある抗癌剤耐性ヒト白血病細胞で発現変化のおきている遺伝子の検索を行ない、以下のことを明らかにした。 1 ヒト白血病U937細胞およびそのアポトーシス耐性変異株UK711細胞において発現量に差のある遺伝子をcDNAサブトラクション法を用いて検索し、解糖系の副生成物メチルグリオキサールを代謝する酵素グリオキサラーゼIがUK711で顕著に発現亢進することを見い出した。 2 種々の薬剤耐性ヒト白血病細胞におけるグリオキサラーゼI酵素活性を測定し、UK711細胞のみでなく他のアポトーシス耐性細胞であるUK110細胞やアドリアマイシン耐性株K562/ADM細胞などにおいても親株に比べその活性亢進を認めた。 3 グリオキサラーゼIの遺伝子導入細胞は、アドリアマイシンやエトポシドによるアポトーシスに耐性を示した。この際、アポトーシスの実行過程に重要な役割を果たすカスパーゼの活性化が阻害されていることがわかった。 4 グリオキサラーゼIの選択的阻害剤S-p-bromobenzyl glutathione cyclopentyl diester(BBGC)のアポトーシス耐性細胞への効果を検討した結果、BBGCはin vitroにおいて白血病細胞のエトポシド耐性を克服する作用を示した。 以上の結果から、グリオキサラーゼIはヒト白血病において高頻度に発現する薬剤耐性因子であり、薬剤耐性白血病の選択的標的因子となりうることが示唆された。
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