遺伝子治療を有効に行うためには、遺伝子ベクターを生体での作用部位に適切な濃度、時間パターンのもとに的確にデリバリーする技術に加え、細胞内に取り込まれた遺伝子ベクターの徐放をコントロールすることで遺伝子発現を自由に制御するシステムの構築が要求される。これらの目的を達成するための戦略として用いたアテロコラーゲンによる遺伝子ベクターの生体内導入に関して、今年度の成果を以下にまとめる。1)細胞への導入率に関して、両者の混合物の最適な粒子径を決定すべく、詳細な検討を行ったところ、平均粒子径が125から150ナノメーターの場合が、遺伝子導入効率が最も良いことが判明した。この粒子が細胞内に取り込まれると、内包した遺伝子ベクターが徐放化され、遺伝子発現が長期間にわたって持続することが考えられる。2)アテロコラーゲンは静電気的に遺伝子ベクターと結合し、両者の混合比を調節することによって細胞に取り込まれやすいナノサイズの粒子状に成形することが可能である事を明らかにした。さらにこれらのナノサイズの混合物をあらかじめ96穴のマルチプレートに固定し、そこに細胞を播き込むと、細胞への遺伝子導入と発現が可能であった。この方法は、プラスミドDNAのみならず、ウイルスベクターやアンチセンスオリゴヌクレオチドをプレート上に固定化したうえで、細胞に導入することを可能にした。アテロコラーゲンによりプレート上にいったん固定化された遺伝子医薬は数週間活性を保ったままで保存が可能であった。この技術を応用したトランスフェクションアレイは、遺伝子医薬導入アレイを作成し、そこに目的の細胞を植え込むことで蛋白質の機能解析や疾患治療に有効な遺伝子医薬の細胞レベルでの発現スクリーニングをハイスループット化することが可能になった。
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