我々は有効かつ安全ながんの遺伝子治療の実現に向けてアテロコラーゲン・デリバリーシステムによる生来内遺伝子発現制御方法の開発と応用を検討している。アテロコラーゲンは静電気的に遺伝子ベクターと結合しているが、本年度は両者の混合比を調節することによって細胞へと取り込まれやすいナノサイズの粒子形に成型する技術を完成させた。さらにはこれらのナノサイズの粒子混合物をあらかじめ96マルチウエルプレート上に固定化し、そこに細胞を巻き込むと、細胞への遺伝子導入と発現が可能であった。この方法は、プラスミドDNAのみならずウイルスベクターやアンチセンスオリゴヌクレオチド、さらにはsiRNAをプレート上に固定化したうえで、細胞にデリバリーさせ、機能を発揮することが可能であった。この技術を応用することで、遺伝子医薬トランスフェクションアレイを作成し、目的の細胞を植え込むことでタンパク質の機能解析や疾患治療に有効な遺伝子医薬の細胞レベルでの発現によるスクリーニングをハイスループット化することが可能になり、迅速な遺伝子機能の解析や有効な遺伝子医薬の発見につながるものと期待される。また、アテロコラーゲン包埋法の動物個体レベルへの応用として、B16メラノーマ細胞の遺伝子治療に関するデリバリー方法の検討を開始した。方法としては、B16F10メラノーマ細胞を移植したマウスに対して、アテロコラーゲン遺伝子導入方法によってIL-2遺伝子をデリバリーし、腫瘍の抑制効果を遺伝子単独、あるいはリポゾーム法との場合と比較検討した。その結果、遺伝子単独、あるいはリポゾーム法に比べて、アテロコラーゲンをキャリアとした場合が顕著に皮下に移植した腫瘍を抑制した。今後は、B16メラノーマ細胞の肺転移の抑制に関してアテロコラーゲン包埋法が有効であるかどうかを、投与方法と併せて検討する。以上、本研究の遂行により、アテロコラーゲンが遺伝子治療用ベクターと相互作用し、ベクターの能力を生体内で効果的に引き出すことを証明し、遺伝子デリバリーにおけるバイオマテリアルの有用性を確立した。
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