アテロコラーゲンとDNAとの結合は静電気的なものであり、ナノ粒子状の両者の複合体は細胞に効率良く取り込まれ、長期間にわたる遺伝子発現を可能にした。さらに動物を使って、これらのアテロコラーゲン・DNA複合体を用いた静脈内投与による遺伝子治療の効果を詳細に検討した。遺伝子治療のモデルとしてIL-2遺伝子投与によるB16メラノーマ細胞の肺転移モデルを用いた場合、アテロコラーゲンによるIL-2遺伝子投与はリポソーム法に比較して顕著な肺転移抑制効果を示し、アテロコラーゲン・DNA複合体の有効性が示唆された。また、疾患部位特異的遺伝子導入のためのツールとして、このアテロコラーゲン・遺伝子複合体に鉄分子をカップリングさせたナノ粒子を合成した。この粒子をマウスの尾静脈から注入し、肺及び肝臓に体外から250Gの磁場を照射したところ、複合体ナノ粒子は磁場特異的に集積し、その後の遺伝子発現も肺、肝臓特異的であり、その他の臓器外の非特異的発現はin vivoイメージング解析では認められなかった。以上の結果は鉄含有複合体と磁場誘導の手法が、臓器特異的遺伝子導入の新たな可能性を示すものである。本年度の研究成果により、アテロコラーゲン・遺伝子複合体のナノ粒子が生体内の腫瘍や特異的臓器にデリバリー可能であることが動物モデルを用いて判明した。複合体ナノ粒子の成型を均一にする技術が完成し、擬集を起こさない100nm前後の粒子を供給することが出来れば、本技術の臨床応用に近づく成果となあるであろう。さらにこの粒子にはアンチセンスのような短いオリゴヌクレオチドの包埋とデリバリーが可能であることがマウスの実験から明らかにされている。今後は、遺伝子の機能をノックダウンするツールとして大きな期待が寄せられている短い二重鎖RNA(siRNA)のデリバリー方法としての本技術の可能性を追求する必要がある。
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