研究概要 |
がんに対する遺伝子医薬治療を有効に行うためには、遺伝子ベクターや核酸医薬を生体での作用部位に効果的かつ特異的にデリバリーする技術が要求される。これらの目的を達成する目的でアテロコラーゲンによるオリゴヌクレオチドの生体内導入を検討し以下の成果を得た。1)炎症性サイトカインを抑えるICAM-Iに対するアンチセンスとアテロコラーゲン複合体を接触性皮膚炎モデルマウスの尾静脈から全身性に投与すると,マウスの耳に生じた接触性皮膚炎が顕著に抑制された。2)前立腺がんや乳がんで診られる全身性の骨転移に対する新たな治療法としてアテロコラーゲンによるsiRNAのデリバリーを試みた。まずsiRNAとアテロコラーゲンの複合体をマウス尾静脈から投与すると、各臓器の単位重量あたりのsiRNA量は,siRNA単独投与群に比べて、およそ3倍という高い導入効果を示した。さらにマウスに移植されたヒト前立腺がん腫瘍塊には3-4倍も良くデリバリーされていた。またルシフェラーゼを発現するヒト前立腺がん細胞PC-3Mを用いた骨転移モデルを用意し、リシフェラーゼを特異的に抑制するsiRNAをアテロコラーゲン複合体として尾静脈から全身投与し,そのマウスをin vivoイメージングで解析した結果,siRNA単独投与では全身の骨転移巣でのルシフェラーゼ量はせいぜい20-30%程度の抑制であったのに対し,siRNA/アテロコラーゲン複合体投与マウスでは90%以上の絶大な抑制効果が認められた。またこれらの複合体を投与されたマウスでは毒性は認められなかった。以上の結果はアテロコラーゲンがsiRNAの全身性のデリバリーに有用な方法であることを示している。しかし、siRNAには無関係な遺伝子の発現に影響を与えてしまう危険性があるため,今後は複合体投与の際の動物の生体反応やより詳細な遺伝子発現の変化等を慎重に検討する必要がある。
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