本研究は特定の蛋白質の点突然変異によって表現型が変異型を示すいくつかの哺乳類細胞を用いて、これらの細胞に分子シャペロン(Hsp70やHsp40相同体)を高発現させることで、野生型の表現型に回復させようとする全く新しい概念に基づく遺伝子病治療の基礎的研究である。この方法は蛋白質の折りたたみが異常で発症する多くの遺伝子病に応用可能である。また、副作用が少なくしかも分子シャペロンの誘導を促進する薬剤があれば、がんや脳疾患などの後天的な病気の予防・治療に役立つことになる。 1.点突然変異により温度感受性(39℃では増殖不能)になった細胞(tsTM4)に分子シャペロンを導入し、分子シャペロンが変異蛋白質の機能を回復させることができるかどうかを検討した。分子シャペロン単独、または2つの組み合わせでは39℃で増殖できる細胞は得られなかった。しかし構成的に活性型となったHSF1を導入したところ39℃でも増殖できる細胞が出現してきた。このことは分子シャペロンが過剰に存在すると、変異蛋白質であっても正常に機能できることを示唆している。 2.胃がんおよび大腸がんの組織では、かなりの頻度でHsp70およびHsp40が高発現していることが判明した。 3.潰瘍性大腸炎の患者の炎症部分では、26例中17例でHsp40が高発現していた。また、Hsp40に対する自己抗体がこれらの患者では健常人と比べて有意に高かった。 4.漢方薬のなかで分子シャペロン誘導剤がないかどうかをスクリーニングしたところ、paeoniflorinという化合物がそれ単独でもHsp70を誘導することが判明した。
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